◇大阪市の入れ墨問題が世間を賑わせている。近年では西洋文化の影響か、ファッションで入れ墨をする傾向があるようだが、日本においては、江戸時代の入墨刑や、明治初期からの非合法の扱いとなった経緯もあり、その存在に嫌悪感や恐怖感が抱かれることは致し方ないことであろう。
◇一方、日本の伝統的入れ墨は、その高い技術と芸術性から、美的価値を持つ伝統芸術であるともいわれている。彫師にしてみれば、他人の身体をカンバスにしているとはいえ、精魂を込めて施した入れ墨に高い誇りと、愛情を持っているものと思われる。
◇知的財産という視点で「入れ墨」にスポットをあててみると、珍しい判例がある。
◇自身の身体に彫られた仏像の入れ墨を、彫師に無断で自叙伝の表紙に使用して出版した執筆者男性と出版社に対して、彫師の「著作者人格権を侵害した」として損害賠償を支払うよう命じた判例である。
◇著作者人格権とは、著作者の人格を守るための3つの権利であり、著作者が未公表の作品を公表するかどうかを決定する「公表権」、作品に著作者の氏名を表示するか、どのように表示するかを決める「氏名表示権」、著作物に手を加えるなどその内容を無断で変えさせない「同一性保持権」から成立する。 今回のケースでは「氏名表示権」と「同一性保持権」の侵害が認められている。
◇執筆者男性と出版社側は、「本件入れ墨は、本件仏像写真の単なる機械的な模写又は単なる模倣にすぎず、著作物性を認めることはできない」という反論をしていた。
◇しかし、「本件入れ墨の制作過程」として、デザイン決定までの経緯や、施術過程を認定、この入れ墨は彫師の思想、感情が創作的に表現されていると評価することができるとして、彫師に著作権があるとしている。
◇事件の詳細、判決文は以下の裁判所HPへのリンクをご覧いただきたい。
第一審: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110801165012.pdf
控訴審: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202170933.pdf
別紙: http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110801165453-1.pdf
◇私達の身の回りには、著作権をはじめとする知的財産権が存在している。
◇スーパーなどに貼りだされている幼児が描いたお母さんやお父さんの似顔絵。
子供が描いたアニメ・キャラクターのイラスト。
露店で売られている戦隊モノのオモチャや、アイドルのブロマイド。
アニメ・キャラクターや、美術作品をアレンジしたホームページの背景画面。
◇それらの使われ方や、権利者の背景を想像、時には追跡してみるのも、知的財産を知る良い機会かもしれない。(進藤)