2011年12月1日木曜日

部分的模倣と部分意匠制度

◇模倣品の被害はほとんど減少する気配もなく、巧妙な手口によるものが増加してきていると見える。その巧妙な手口の一つに、部分的模倣というのがあり、文字通り物品の全体でなく、独創的な特徴がある一部分を取り入れつつ、物品全体としては意匠権侵害とならない巧妙な手口による模倣である。

◇このようなときに物品全体として意匠権侵害とならない理由はというと、旧来、意匠法でいう「物品」とは独立した製品として流通するものと解されていたことから、物品の部分に係る意匠は意匠法の保護対象とはされていなかったからである。このような巧妙な部分的模倣に対処するため、平成10年法改正で、部分意匠制度が導入された。意匠法2条の意匠を構成する「物品」の定義に「物品の部分」が含まれることを明確にすることで、部分意匠が保護されることになったのである。

◇例えば、ペンのクリップの部分がその物品の部分にあたる。矢羽根型クリップ付きの世界的に有名な万年筆がある。それが矢羽根型クリップによりあの有名な社のものと出所がはっきりするし品質も保証されるから買うんだという向きには商標的な機能が発揮されているともいえるが、その矢羽根型クリップが非常にカッコ良くてデザインに魅了されるからその万年筆を買うんだという向きには意匠としての価値が見出されているのかもしれない。部分意匠制度導入前は、そのようなペンのクリップのような物品の部分の場合、それが独創的な特徴ある部分であっても意匠法上保護されなかったのであるが、当該制度導入によりそれも可能となったのである。

◇平成10年の意匠法の一部改正では、この部分意匠制度の導入以外に、類似意匠制度の廃止と関連意匠制度の創設等々、大きく重要な改正が幾つかあった年である。この中でも、部分意匠制度は、模倣対策に困っていた中小の町工場の経営者達からも喜んで迎え入れられたと聞くし、出願の割合で見ても増加傾向が続いている。特許庁2010年版年次報告書で見ても、出願全体に占める部分意匠の出願件数割合は、2005年に22.6%、2006年に23.8%、2007年に25.6%、2008年に27.1%、2009年に28.1%と着実に割合が増加傾向を示しており、当該制度の有用性を窺い知ることができる。

◇このように非常に便利で人気の制度であるが、先後願関係、類否判断等がかなり複雑になったというのを強く実感する。

◇部分意匠における類否判断手法とは何かについては常に議論となるとされる。破線等で表された部分(権利要求範囲外)が、実線部分(部分意匠権要求範囲)に与える影響を大きく見るか小さく見るかで結論を左右した事件である百選等でも取上げられ有名な「コンパクト事件」を簡単に見てみたい。

〔コンパクト事件〕
知財高裁平成17年4月13日判決
平成17年(行ケ)第10227号
審決取消請求事件
請求棄却
意匠法10条1項、2条1項

◇本件は、意匠に係る物品を「コンパクト」とし、平成13年3月22日に関連意匠として意匠登録出願(意願2001-7969号)した本願意匠(部分意匠)が、本意匠(部分意匠)に類似するものではなく、意匠法10条1項に該当しないから、意匠登録を受けることができないとした原査定を維持する審決(不服2003-5705号)を不服とする審決取消訴訟である。本件は、侵害事件ではなく、関連意匠での類否判断が問題となり、同一出願人が類似すると考えて出願した2つの部分意匠が類似しないので関連意匠として登録を受けられなかった事案である。


  
◇本判決では、部分意匠の類否判断での破線部分の解釈が争われた。裁判所は、実線部分の形態はすなわち部分意匠の形態であり、その形態が何に起因しているか否かを問わず、部分意匠自体の形態であることに違いはなく、物品の部分の特徴を示すものであることに変わりはないのであるから、これを評価の対象から捨象したり、特別に低く評価することはできないものといわざるを得ないなどと判断し、対比される両意匠は互いに類似しないと判断している。

◇本件のような場合は、独立の意匠として登録を得ることも考えられるが、その場合、上蓋が三角形状や五角形状など考え得るものを種々出願しておかなければ、その独創的な凸部集合体を上蓋に敷き詰めたというデザイン・コンセプトは完全には保護し得ないことになるのではないであろうか。(當間)

2011年10月20日木曜日

韓米と韓EUのFTAの商標制度への影響と歴史的沿革

◆韓米のFTAと韓EUのFTAについては、最近、紙面上で取上げられることも多いが、商標制度、特に地理的表示に関連し、世界の歴史的沿革とともにみると面白い特徴が見えてくる。

◆地理的表示について世界の歴史的にみると、大きな2つの対立構造が見えてくる。それは、欧州と米国の対立構造であり、欧州のように地域ブランドを持てる国と、米国のようにそれを持たざる国との対立構造とみることもできる。世界各国での100年を超える長期に亘るバドワイザー(由来はチェコの地名)商標紛争に代表されるように、アメリカ大陸では欧州の地名に由来する商品が多く製造・販売されているとされる。

◆まず、独自の地理的表示の保護制度をもつ欧州については次のような背景がある。地理的表示については、古くは欧州の特にフランス等のラテン系の国で、ワイン、チーズ等の伝統発酵(加工)食品等に力を入れ、保護を主張されてきたとみられる。フランスでは、ワイン産業の混乱に対処するため、1919年に原産地呼称法が成立し、さらに、1935年には統制原産地呼称(AOC法)が成立している。その後も、EUは、1992年に農産物及び食料品を対象とする原産地呼称及び地理的表示の保護に関する制度(理事会規則No 2081/92)を創設している。TRIPS協定22条1項は、この理事会規則と似たような規定ぶりとなっており、ここにEUのウルグアイラウンドにおける影響がみられる。さらに、ぶどう酒又は蒸留酒の地理的表示については、TRIPS協定23条1項があり、非常に保護の厚いものとなっているが、これも古くからの歴史的背景をもつEUの強い主張が現れたものと考えられる。この歴史的流れの影響を受けたと考えられるのが、今般の韓EUのFTAとみられる。保護される地理的表示として、例えば、Comte, Camembert de Normandie, Gorgonzola(チーズ)、Beaujolais, Bordeaux, Champagne, Medoc, Cognac(葡萄酒)、Irish Whisky, Scotch Whisky(蒸留酒)など商標法上の拒絶理由を新設している。

◆そして一方、独自の地理的表示の保護制度を設けては不利になるであろう米国等は、例えば、証明商標という商標法の枠組みの中でこれを解消しようとしている。この歴史的流れの影響を受けたと考えられるのが、今般の韓米のFTAとみられる。商標は証明標章を含み、地理的表示が商標として保護される資格があることを規定している。

◆地理的表示の保護は、常に品質の証明と認定という問題がつきまとっているとみられる。欧州のように強力に保護をしようとすると、独自の地理的表示の保護制度が必要になるであろうし、商標法はもともと公共の財産的な地理的表示を完全に保護する法体系にもない。また特許庁は、本来的に品質を認定する機関でもない。このように二極間の対立構造は、お互いの経済的利益をめぐり常につきまとってきた問題とみえるが、地域ブランドを持てる国か持たざる国かの差は、地の利に恵まれることと、それを活かし熟成させる長い歴史が必要となるであろうから、双方の歩み寄りは難しいのかもしれない。(當間)

2011年9月29日木曜日

パテント・トロール

◇知財関係者で最早知らない人はいないであろう。発明家や倒産企業から特許を安価で買い漁り、その特許を侵害している疑いのある企業を見つけ出しては、訴訟や交渉を繰り返し、巨額な賠償金や和解金、または、ライセンス料をせしめることをしのぎとしている個人や集団を蔑称して「パテント・トロール」、またの名を「特許ゴロ」と呼ぶ。
ちなみにトロールとは、奇怪な妖精や怪物のことで、ゴロは「ゴロツキ」のゴロである。

◇当然、特許権の行使をすること自体に何の問題もないのだが、所謂、パテント・トロールと言われる個人や集団は、特許権を保有しているだけで、自ら特許を実施した製品を製造したり販売しているわけではなく、和解金やライセンス料をせしめることだけを目的にしているところが、パテント・トロールや特許ゴロなどと言われて恐れられている所以だ。

◇特に米国では、投資家から集めた資金で特許を買い集め、特許侵害で得られた賠償金や和解金、またはライセンス料金を投資家に分配するという商売をしているトロール集団が既に200社以上存在することが確認されている。

◇これら米国に実在するトロールの具体的なスキームはこんな感じだ。
まず、米国では訴えられた側が、特許権を侵害していないことを立証しなければならず、立証には膨大な関係資料を膨大な時間と工数をかけて準備しなければならない。いくら勝訴する自信があったとしても、億単位の費用がかかる為、頭を悩ませながら対策を検討していると、タイミングを見計ったかの様にトロール側は和解提案書を送り付けて来る。
今後の訴訟費用のことや、米国の陪審員制度等により判決が予想し難いことを考えて、企業(被告側)の経営判断として和解に応じざるを得ないことをトロール側は計算しつくしているのである。

◇厄介なことにトロール側は製品を製造・販売していないので、落度を見つけて逆に訴訟を起こしたり、特許のクロスライセンス契約をすることも出来ず、また、トロール行為以外に何か特定のサービスやビジネスをしているわけではないので、手の出しようがない。せいぜい、特許無効を申し立てたり、侵害していないことを主張したりするしか手が無いのである。

◇米国では、既にパテント・トロール対策会社が存在するぐらい、深刻な状況になっている。
幸いにして現在のところ、日本企業が大きな被害にあったという話は聞かれてないが、そろそろ日本も対岸の火事では、いられない時期に近付いているのでは無いだろうか。現に、私の知っている特許事務所の方にも、パテント・トロールに関係する相談が日本企業から寄せられているという。まずは、今後、被害に遭うことを想定して、確りとした企業方針を打ち立てるなどの、対応策を検討しておくべきであろう。(山本)

2011年8月18日木曜日

商標概念の拡張の中で

◇商標法上の商標概念は、世界的な潮流を見れば拡張を続けている。我が国の商標概念の変遷を見ると、1959年の立法当初から、いわゆる商品における平面商標の時代が続いているが、1990年代以降は、国際調和、世界的趨勢もあり、商標概念は拡張を続けている。

◇平成3年法改正で役務商標制度、平成8年法改正で立体商標制度、団体商標制度、平成17年法改正で地域団体商標制度、平成18年法改正で小売り等役務商標制度が導入されている。

◇そして、いわゆる新商標や非伝統的商標などと呼ばれる商標、「動き」、「ホログラム」、「色彩のみ」、「位置」、「トレードドレス」、「音」、「香り」、「味」、「触覚」等の概念が登場し、日本でも、「音」、「動き」、「位置」等については近々導入をと動き出している。こうなると商標の世界は何でもありで楽しそうな世界に見えてくるが、実際には色々な難問題もあり難航しているというのが実情のように見える。

◇商標とは何かという問いに、商品やサービスの出所識別機能があればよいのではとする答えは、ある意味で商標の本質を言い当てているのかもしれない。しかし、そのような機能を発揮するものは何でも保護してしまえばよいのかというと、現実にはそうはうまくいっておらず、幾つかの壁が存在している。例えば、いわゆる新商標では、特許庁にどのように「音」や「香り」を正確に提出し、それを正確に再現し、公示できるのかという、ある意味テクニカルな面が最も重要で困難な問題を提起していると考えることもできる。何だそんなことでと思うかもしれないが、外国では「音」の商標は音符やグラフの波形などで提出したりしている例が多いが、台湾がやっているような録音した音源の提出が果して良いのか、疑問は尽きない。

◇また、立体商標では、3条2項適用の使用による特別顕著性が現在の実務で登録を付与されるために有効に機能しており、伝家の宝刀のようにみえなくもない。我が国は登録主義を採るとはいえ、平面の伝統的商標から離れていくに従って、本来的な商標から遠ざかり、最後の切り札として使用主義的側面が強まっていくのかもしれない。

◇立体商標では、懐中電灯事件、コーラ飲料の容器事件、乳酸菌飲料の容器事件などに続き、先ごろ肘掛椅子事件の判決で大きな関心をもたれた方は多いであろう。もともと物品の形状そのものは、更新を繰り返すことで半永久的な権利となる立体商標の商標権と、設定登録から20年で消滅する意匠権が重畳した場合、半永久権の立体商標を認めてはおかしいという政策的な調整が重要なポイントにはなっているはずであるが、果して今後どのようになっていくのか、興味は尽きない。

2011年7月28日木曜日

ストップ・ザ・ニセモノ天国

◇ついに、中国(雲南省)で、米アップルが全世界で展開する直営店「アップルストア」の偽店舗が登場した。実際にアップルの直営店は中国内に数店舗が実存するようであるが今回、確認された3店舗はいずれも、それに該当しない店舗であるという。本物のアップル店と比較すると、リンゴのロゴマークは出されているものの、壁のペンキの塗り方が少し雑であったり、一部の店名に誤植があったりと、よくよく観察すると偽店舗と分かるとのことであるが、偽店舗としての完成度はかなり高く、本物のアップルに勤めていると思い込んでいる店員もいたとの情報も流れているほどである。また、真相は不明であるが取り扱っていた商品は、全てホンモノのアップル製品であったという、如何にも間の抜けた話。

◇既に中国の”ニセモノ天国”ぶりは、止まるところを知らない状態になっているのはご存知の通りである。つい最近でも、中国で8月から放送予定の高速鉄道(中国版新幹線)を主役としたテレビアニメ「高鉄?」が、日本のアニメ「超特急ヒカリアン」に酷似しているとして、中国でも盗用を疑う声が広がっている。

◇さらに、最近ではあまり目立たない製品の付属品や消耗品のニセモノまでもが流通しているという。特に多いのは電化製品のバッテリーパックやケーブル類、その他の消耗品類である。これらのニセモノが厄介なのは、製品としてそれなりに機能してしまう点であろうか。その為に、ニセモノと気がつかないで使っている人は多いのであるが、いずれ発火や故障する恐れもあり、黙認できるシロモノではない。実際に発火して死傷したという事故が起きているのである。

◇よく、メーカー企業の模倣品(ニセモノ)対策は、「モグラ叩きゲーム」の様に例えられるが、あきらめずに何度も対策を講じることが大切であり、放置する事は非常に危険な行為である。小さな芽のうちに摘んでおかないとモグラは、いずれモンスター化し、太刀打ち出来ない状態になってしまう。

◇当たり前の話であるが、模倣品は、何よりも買う人がいるから作って売る行為が後を絶たないのである。我々、一人一人が出来る事として、ニセモノには見向きもしないという強い気持ちを持つ事と、ニセモノを見分ける知識・能力を備える事が大切であり、それらが撲滅に向けての礎になるのである。経済産業省では中国国内のECサイトで販売されている日本製品の模倣品率を研究するなどの動きを見せている。知財大国を謳っている日本の国民としても真摯に対峙しなければならない問題である。(山本)

2011年7月21日木曜日

ブランドへの意識

◇消費者庁が4月に採用した本庁のシンボルマークが、世界各国の図書館などが参加する書誌データベース「WorldCat(ワールドキャット)」のマークと酷似している。今月6日、WorldCatを提供しているOnline Computer Library Center, Inc. (OCLC)から「商標登録したロゴと類似しているので、使用をやめてほしい」と指摘されたという。

消費者庁: http://www.caa.go.jp/soshiki/index_caa.html

WorldCat: http://www.worldcat.org/

◇消費者庁では昨年11月にマークを公募し、109作品の中からグラフィックデザイナーの作品を選んだ。今回の件を知ってかデザイナー自身が発信するSNSサイトでは「困惑。恐ろしいほど偶然のいたずらです。」とコメントを残している。

◇電話取材に応じた消費者庁担当者によると、マーク選定にあたり特許庁にも相談したが、類似する商標は確認できなかった。今後は作者と協議し早急に修正作業に着手したい。マークの修正が完了次第に公表するとしている。

◇今回のマーク選定に掛かった費用は、総額60万円とのこと。 既存印刷物などの差し替えは予定していないというが、今後の修正作業にもいくらかの費用は発生するであろう。

◇WorldCatの図形商標(マーク)が登録されたのは2004年9月。この商標の出願~登録状況は、特許庁のデータベース(IPDL)で検索することが可能である。

http://www.d-quest.co.jp/pdf/info_4800133.pdf?blog=ipr

◇多くの企業が、他社の商品・サービスと区別するために社章や商品・サービスに使用するロゴやマークをデザインする。そして、自社オリジナルのマークとして使用を専有、類似範囲で他者を排除するため特許庁に商標出願し、同一・類似の商標の登録がない場合は登録が認められる。

今回のケースも事前に図形商標の登録状況が確認できていれば防げた事案ではないだろか。消費者庁側では「特許庁に相談した」と言っていることから、特許庁において類似商標の確認作業が行われたと推測される。担当者の作業に抜けがあったのだろうか。だとしたら、けしからんっ!

◇・・・とも言い切れない。何せ特許庁には図形商標が約50万件、商標全体では約200万件が登録されているのだから。今回のマークを例に、類似する商標登録がされていないかどうかを確認する場合でも、数万件の登録商標と見比べる必要があるなど、時間と労力とスキルが必要となる大変な作業なのである。

◇一般企業におけるブランド(商標)戦略は大変重要である。企業の将来を託した新製品やサービス。プロモーションのための販促グッズや広告宣伝にも多くの費用と労力が使われる。認知向上、品質保証を意識付けする商標の選定には神経質にならざるを得ない。

◇新しい商品・サービスがマークと供に世に定着した後になって、そのマークの使用ができなくなったら・・・ブランドに対する意識を持つ必要がある。(進藤)

2011年6月20日月曜日

知的財産とリスク管理、コンプライアンスの問題

◇知的所有権、無体財産権などとも呼ばれてきた権利については、最近では、知的財産権とよばれることが多い。所有権の保護対象は有形の有体物であるが、無体物を保護するのに知的所有権ではおかしいという学説、見解も出現するなどした経緯もあるが、この無形の無体物を保護するという点で、多くの問題が生ずるに至っている。

◇まず、知的財産権の種類と、それを保護する法;保護対象(カッコ内に記載)については、特許庁所管で産業財産権ともよばれる特許権(特許法;発明)、実用新案権(実用新案法;考案)、意匠権(意匠法;意匠)、商標権(商標法;商標)があり、その他にも、著作権(著作権法;著作物)、回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律;半導体集積回路の回路配置)、育成者権(種苗法;植物の新品種)、営業秘密(不正競争防止法;営業秘密・ノウハウ)、商号(商法;商号)、商品表示・商品形態(不正競争防止法;商品表示・商品形態)などがある。

◇これら知的財産の特徴は、無体の情報がもとになって作り上げられたものであり、所有物のように金庫に入れておけば安心という財産ではない。その無体の情報は、流出し易いものであり、また模倣も容易に行える。そして、これらは、無形で把握するのが難しいという点でリスク増大の要因ともなり得る。

◇職務発明について、青色発光ダイオード特許対価事件で、東京地裁で200億円(地裁の算定は約604億3000万円)の判決が出て、企業関係者に大きな衝撃を与えた。その後、東京高裁で被告会社が原告に6億857万円(利息を加えると8億4391万円)を支払うことで和解が成立している。この事件は、大きな注目を集めたが、その後の職務発明の在り方や、企業のリスク管理の在り方などにも大きな影響を与えている。

◇それとはまた別の観点で企業ノウハウについて見てみると、世界的に有名な某飲料メーカーでは、その製造方法を特許として出願しておらず、云わば社内ノウハウとして秘蔵しているのである。こんなことが可能か、またそのメリットはというと、次のようなことが考えられる。同社は、原液の秘密を社長と顧問弁護士の二人のみが知っており、世界各地では原液の配給を受けてボトリングしているだけであるといわれているが、その製造工程も無数(100工程位か?)に分け、途中の作業員が数人同業他社に引き抜かれても、その全貌は全く分からないようにしているとも聞く。この管理方法によりほぼ永久にノウハウが独占できるわけであるが、特許出願をしていれば、もう特許権も切れて誰でも自由に実施ができるようになっているはずであり、同社の今日の栄華、世界的成功はなかったかもしれない。

◇ここに2つの特徴的事例をみてみた。無形で把握が難しい知的財産であるが、それをきちんと把握し、リスク管理を行い、コンプライアンスに対処することは、今や企業にとっては避けては通れない重要な課題となっており、企業成功の大きなカギを握っていることに間違いはないであろう。 (當間)