◆韓米のFTAと韓EUのFTAについては、最近、紙面上で取上げられることも多いが、商標制度、特に地理的表示に関連し、世界の歴史的沿革とともにみると面白い特徴が見えてくる。
◆地理的表示について世界の歴史的にみると、大きな2つの対立構造が見えてくる。それは、欧州と米国の対立構造であり、欧州のように地域ブランドを持てる国と、米国のようにそれを持たざる国との対立構造とみることもできる。世界各国での100年を超える長期に亘るバドワイザー(由来はチェコの地名)商標紛争に代表されるように、アメリカ大陸では欧州の地名に由来する商品が多く製造・販売されているとされる。
◆まず、独自の地理的表示の保護制度をもつ欧州については次のような背景がある。地理的表示については、古くは欧州の特にフランス等のラテン系の国で、ワイン、チーズ等の伝統発酵(加工)食品等に力を入れ、保護を主張されてきたとみられる。フランスでは、ワイン産業の混乱に対処するため、1919年に原産地呼称法が成立し、さらに、1935年には統制原産地呼称(AOC法)が成立している。その後も、EUは、1992年に農産物及び食料品を対象とする原産地呼称及び地理的表示の保護に関する制度(理事会規則No 2081/92)を創設している。TRIPS協定22条1項は、この理事会規則と似たような規定ぶりとなっており、ここにEUのウルグアイラウンドにおける影響がみられる。さらに、ぶどう酒又は蒸留酒の地理的表示については、TRIPS協定23条1項があり、非常に保護の厚いものとなっているが、これも古くからの歴史的背景をもつEUの強い主張が現れたものと考えられる。この歴史的流れの影響を受けたと考えられるのが、今般の韓EUのFTAとみられる。保護される地理的表示として、例えば、Comte, Camembert de Normandie, Gorgonzola(チーズ)、Beaujolais, Bordeaux, Champagne, Medoc, Cognac(葡萄酒)、Irish Whisky, Scotch Whisky(蒸留酒)など商標法上の拒絶理由を新設している。
◆そして一方、独自の地理的表示の保護制度を設けては不利になるであろう米国等は、例えば、証明商標という商標法の枠組みの中でこれを解消しようとしている。この歴史的流れの影響を受けたと考えられるのが、今般の韓米のFTAとみられる。商標は証明標章を含み、地理的表示が商標として保護される資格があることを規定している。
◆地理的表示の保護は、常に品質の証明と認定という問題がつきまとっているとみられる。欧州のように強力に保護をしようとすると、独自の地理的表示の保護制度が必要になるであろうし、商標法はもともと公共の財産的な地理的表示を完全に保護する法体系にもない。また特許庁は、本来的に品質を認定する機関でもない。このように二極間の対立構造は、お互いの経済的利益をめぐり常につきまとってきた問題とみえるが、地域ブランドを持てる国か持たざる国かの差は、地の利に恵まれることと、それを活かし熟成させる長い歴史が必要となるであろうから、双方の歩み寄りは難しいのかもしれない。(當間)